強頸断間と衫子断間

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仁徳天皇(十六)強頸断間と衫子断間

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原文

冬十月、掘宮北之郊原、引南水以入西海、因以號其水曰堀江。又將防北河之澇、以築茨田堤、是時、有兩處之築而乃壤之難塞、時天皇夢、有神誨之曰「武藏人强頸・河內人茨田連衫子衫子、此云莒呂母能古二人、以祭於河伯、必獲塞。」則覓二人而得之、因以、禱于河神。爰强頸、泣悲之沒水而死、乃其堤成焉。

唯衫子、取全匏兩箇、臨于難塞水、乃取兩箇匏、投於水中、請之曰「河神、崇之以吾爲幣。是以、今吾來也。必欲得我者、沈是匏而不令泛。則吾知眞神、親入水中。若不得沈匏者、自知偽神。何徒亡吾身。」於是、飄風忽起、引匏沒水、匏轉浪上而不沈、則潝々汎以遠流。是以衫子、雖不死而其堤且成也。是、因衫子之幹、其身非亡耳。故時人、號其兩處曰强頸斷間・衫子斷間也。是歲、新羅人朝貢、則勞於是役。
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現代語訳

(即位11年)冬10月。
宮(難波の高津宮のこと)の北の郊原(ノ=野)を掘って、南の川の水を引いて西の海に引き入れました。それでその川を「堀江(ホリエ)」といいます。また北の川の澇(コミ=後世には濁って「ゴミ」)を防ごうとして、茨田堤(ママウタノツツミ=河内国茨田郡茨田郷=現在の大阪府枚方市伊加賀〜大阪府寝屋川市太間〜寝屋川市池田)を築きました。このとき二箇所、築いてもすぐに崩れて塞ぎ辛いところがありました。仁徳天皇は夢を見ました。神が現れて教えました。
「武蔵人(ムサシヒト)の強頸(コワクビ)と河内人(カワチヒト)の茨田連衫子(マムタノムラジコロモノコ)。
衫子は莒呂母能古(コロモノコ)と読みます。

の二人を河伯(カワノカミ)に祭れば、必ず塞げるだろう」
すぐに二人を探して見つけ出すと、河神に祭りました。強頸(コワクビ)は泣き悲しんで、川に没して死にました。その堤は完成しました。

衫子(コロモノコ)は完全な匏(ヒサコ=ひょうたんのこと、完全なというのは穴の空いていないってこと)を二つ取って、塞がっていない堤のある川に臨みました。二つのひょうたんを取り、川の中に投げ入れて、言いました。
「河神よ! 祟りに対して、わたしを生贄としよう。そのためにわたしはここに来ました。わたしを(生贄として)得ようと思うならば、この匏(ヒサゴ=ヒョウタン)を沈めて、浮かばなせないでください。それならば、わたしは真の神と知って、自ら川の中に入りましょう。もしも、匏(ヒサゴ)を鎮めることができない場合は、自然と偽りの神と知れるでしょう。どうして(偽物の神のために)我が身を滅ぼしましょうか」
すると飄風(ツムジカゼ)がたちまち起きて、匏(ヒサゴ)を引き入れて川に沈めようとしました。しかし、匏は波の上に転がるばかりで沈みませんでした。それで速やかに浮き踊りつつ遠くへと流れていきました。それで衫子(コロモノコ)は死なないでもその堤は完成しました。それで衫子(コロモノコ)の幹(イサミ=才能・器量)によってその身を滅ぼさずに済みました。それでその時代の人は二箇所のことを名付けて「強頸断間(コワクビノタエマ)」「衫子断間(コロモノコノタエマ)」といいます。

この年、新羅人が朝貢に来ました。それでこの役(=堤の工事)に使役しました。
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解説

才覚というよりは、一休さん的屁理屈
泣きわめくばかりで死んでしまう「強頸」と、うまく立ち回って死なずに済んだ「衫子」。衫子は名前からすると「女」のような気がしますが、そこんところはわかりません。ただ、日本は伝統的に「女の方が霊威が強い」と考えているので、本当に女かも。

それは置いておいて。

衫子は生贄とされると聞いて、ひょうたんを用意しました。しかも完璧に穴が空いていないものです。つまり「浮く」んですね。これを二つ用意して、川に投げ込んだ。そんで「本物の神なら、ひょうたんを沈めなさい」と言った。当然、ひょうたんは沈みっこなく、「川の神は偽物」となった。それで生贄にならずに済んだ。

川が氾濫すると生贄をささげて鎮めるというのは、日本だけでなくインドや中国でも見られるものです。生贄自体は珍しくないです。

ところで、生贄とその回避方法の話でよく似たケースがありました。「垂仁天皇(十八)殉葬の禁止」です。垂仁天皇のケースは生贄というか「殉葬」ですからちょっと違いますが、参考までに。あと、魏志倭人伝の邪馬台国の卑弥呼も「殉葬」をしたと書いてあります。しかし、日本の古墳には「殉葬」をしたものが今の所は見つかっていません。

案外、殉葬や生贄という風習は「あるにはあった」が、かなり早い段階で無くなったか、そもそも「頻繁ではなかった」のではないか?と思っています。
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