第十段一書(一)−1わたしは幸鉤が欲しいのだ

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第十段一書(一)−1わたしは幸鉤が欲しいのだ

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現代語訳

第十段一書(一)−1
ある書によると…
兄の火酢芹命(ホノスセリノミコト)は海の幸を上手に採る事が出来ました。弟の彦火火出見尊(ヒコホホデミノミコト)は山の幸を採る事が出来ました。

あるとき兄弟は、お互いの「幸」を交換しようと思いました。それで兄は弟の幸弓(サチユミ)を持って山に入って獣(シシ)を探しました。ところが、探しまわっても獣(シシ)が通った痕跡も見つけられませんでした。

弟は兄の幸鉤(サチチ=幸のある釣り針)を持って、海で魚を釣りました。何も釣れませんでして、その上、その幸鉤(サチチ)を失くしてしまいました。

その後、兄は弟に弓矢を返して、自分の釣り針を求めました。弟は困りました。そこで腰に差していた横刀で釣り針を作り、箕(=ミ=ザルのようなもの)に山盛りにして兄に渡しました。しかし兄は受け取らず言いました。

「わたしは幸鉤(サチチ)が欲しいのだ」
彦火火出見尊(ヒコホホデミ)はどこを探せばいいのかも分かりません。ただただ困り果てて歩き回り、ついには海辺にたどり着き、嘆いていました。
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解説

火闌降命・火酢芹命
本文が火闌降命(ホノスソリ)で、ここでは火酢芹命(ホノスセリ)です。
幸の扱いの違い
本文では「自有海幸」とあります。読み下しにすると、「自ずと海の幸が有り」となります。現代語にすると、「海の幸を生まれながらに持っていた」という意味になります。

それがこの第十段一書(一)では「能得海幸」です。読み下しにすると「海の幸を能く得る」で、現代語にすると「海の幸を得る事が出来る」となります。

つまり本文では「幸」とは神の性質です。しかし第十段一書(一)では現代の私たちが言う所の「海の幸」と同じ意味になっています。
幸とは??
海や山で採れるものは神の気まぐれによって質も量は変化します。客観的には違いますが、古代の人はそう考えていました。だから神に霊威を感じ、敬い崇めました。
また便利な道具(弓矢や釣り針など)にも霊威を感じていましたし、道具を扱うにも熟練が必要で、その熟練技術そのものにも霊威を感じていました。神の気まぐれも、道具も、その熟練も、「サチ」という言葉に集約する事が出来ます。そして、それらの霊威で得た獲物も「サチ」と呼んでいたのでしょう。
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個人的コラム

幸の意味
もしも神の気まぐれも道具も熟練技術も、それらの霊威によって得られたものも全て「幸」と呼ぶならば、なぜ本文とこの一書が存在するのでしょうか?
日本書紀の存在意義
日本書紀氏族の神話をまとめたものなのでしょう。藤原不比等は日本書紀を編纂するまでは決して高位ではありませんでした。父親の藤原鎌足が仕えた天智天皇(=中大兄皇子)が死に、その息子の大友皇子が大海人皇子(後の天武天皇)に破れてしまうと、地方に左遷されています。不比等は決して恵まれた境遇ではありません。妻の橘三千代によって出世しましたが、それでも後の藤原氏の隆盛を約束するほどのものではありませんでした。

天武天皇は古事記の編纂を指示し、持統天皇・元明天皇で古事記が作られました。古事記は天皇の血統を説明するものです。よって、ソレ以外の神話は削られました。中央集権国家を形成するために必要だからでしょう。

それでは削られた神話を持つ氏族はたまらない。大和朝廷が中央集権を目指すということは、当時の中央は集権出来ていなかったわけです。まだまだ地方氏族の力が強かった。彼らのアイデンティティに関わる神話を蔑ろにしたことで、反発もあったでしょう。

そこで日本書紀を作った。
日本書紀でいくつもの一書を書き、神話を残す事で不満を逸らそうとした。そこで歴史の専門家だった不比等を呼び寄せた。いや、もしかすると不比等はこれで人望を得ようとしたのかもしれない。そういった意図がなくとも、日本書紀を編纂した藤原不比等には当然ながら、人望が集まったはずです。

不比等は後の名前で、元々は「史」と書いて「フヒト」でした。つまり不比等はもともとから歴史書の関係者だった可能性が高い。もしかすると、「史」という名前も本名ではないのかもしれない。それが後に「不比等」…「比べるものの無い」という意味の字が当てられた。そこまで出世した理由に日本書紀があったのだろうと思っています。

そういう理由で、多少の違いしかない神話が併記されるようになったのでしょう。

原文

一書曰、兄火酢芹命能得海幸、弟彥火火出見尊能得山幸。時兄弟欲互易其幸、故兄持弟之幸弓、入山覓獸、終不見獸之乾迹。弟持兄之幸鉤、入海釣魚、殊無所獲、遂失其鉤。是時、兄還弟弓矢而責己鉤、弟患之、乃以所帶横刀作鉤、盛一箕與兄、兄不受曰「猶欲得吾之幸鉤。」於是、彥火火出見尊、不知所求、但有憂吟、乃行至海邊、彷徨嗟嘆。
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