第十段一書(一)−3天垢と地垢

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第十段一書(一)−3天垢と地垢

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原文

于時、海底自有可怜小汀、乃尋汀而進、忽到海神豊玉彦之宮。其宮也城闕崇華、樓臺壯麗。門外有井、井傍有杜樹、乃就樹下立之。良久有一美人、容貌絶世、侍者群從、自內而出。將以玉壼汲玉水、仰見火火出見尊、便以驚還而白其父神曰「門前井邊樹下、有一貴客、骨法非常。若從天降者當有天垢、從地來者當有地垢、實是妙美之、虛空彦者歟。」
一云、豊玉姫之侍者、以玉瓶汲水、終不能滿、俯視井中、則倒映人咲之顏。因以仰觀、有一麗神、倚於杜樹、故還入白其王。

現代語訳

第十段一書(一)−3
海の底を進むと、いつのまにか可怜小汀(ウマシオハマ)に出ました。
浜辺に沿って進んで行くと、たちまち海神豊玉彦(ワダツミトヨタマヒコ)の宮殿に到着しました。その宮殿は周囲の垣(城壁)は高く華やかに飾ってあり、高楼は壮大ですばらしいものでした。その門の外に泉がありました。その泉のそばに杜樹(カツラノキ)がありました。火火出見尊(ホホデミノミコト)はその樹の下に立っていました。そしてしばらくして一人の少女がやってきました。少女はこの世の者とは思えないほどに美しかった。その後に御付きの者が付き従って、宮殿内から出て来ました。少女は玉壷(タマノツボ)で水を汲みました。それで顔を起こして火火出見尊(ホホデミノミコト)を見つけました。少女は驚いて宮殿内に帰り、父の神に言いました。
「門の前の泉のそばの樹の下に一人の、高貴なお客様がいらっしゃいます。普段、見かけるような御方ではありません。もしも天から降臨したのであれば、天垢(アマノカワ=天界の匂い)があるでしょう。地から来られたならば地垢(チノカワ=地の匂い)があるでしょう。とてもすてきな方です。虛空彦(ソラツヒコ)という神でしょう」
別の伝によると…
豊玉姫(トヨタマヒメ)の侍者は玉瓶(タマノツルベ)で水を汲みました。なぜか、この器を一杯にすることは出来ませんでした。泉を覗いて見ると、逆さまに人が笑う顔が映っていました。それで見上げてみると、一柱の美しい神がいました。杜樹(カツラノキ)に寄りかかって立っていました。それで帰って王に報告したといいます。
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解説

海神の宮殿は海の底か、海の向こうか
竹で編んだ籠に押し込まれたヒコホホデミは沈んだあと、海の底を進んで、浜辺にたどり着きます。そこには大きな海神の宮殿があったのです。

それで海神の宮殿は海の中か? それとも海の向こうの浜か?? って、どう考えても「海の向こうの浜」ですよね。泉があるくらだから、海の底ってことは無いでしょう。まぁ、神話ですから、多少の矛盾は問題にしないという考えもありますが、いや、さすがに古代の人でも、海の底に「井(=泉)」があるという設定はしないでしょう。

海神とは海に関わる神ではあるが、あくまで地上に住んでいる「海人」の人種です。そう考える方が自然です。

個人的コラム

玉の意味
玉は一般に「宝石」と訳されます。
よって「玉の壷」「玉の碗」と書かれているのは「宝石の器」という意味になります。しかし、宝石たって、ダイヤ門であるはずは無い。では何かというと、そりゃ「翡翠」でしょう。

翡翠は加工が可能なのですが一旦加工すると、経年劣化の無いものです。時間とともに錆びたり朽ちたりしないのです。そこで今で言う「金」のような意味を持っていました。資産ということです。また王権を子々孫々に受け継がせるために便利なものでした。

それで、翡翠は王権の維持、また儀式には必要なものです。そこで八上や糸魚川などの翡翠の産地は大和朝廷にとって要所になりました。

さて、この日向神話の舞台となっている九州南部には翡翠がありません。いや、もしかしたら古代には翡翠の産地があったのかもしれませんが、今のところはそういう証拠はありませんから、無かったとします。すると、糸魚川といった翡翠の産地までは非常に遠い。ではこの玉は何なのか??? どこの翡翠なのか??

翡翠の産地は限られています。日本では糸魚川流域。ここに近い産地はなんと現在のミャンマーです。

わたしはもしも「玉」=「翡翠」ならば、日向神話の言っている「玉」は、ミャンマーの翡翠だろうと思います。なぜか? それは九州南部が東南アジアとの交易の窓口だったからです。
●実際にモノが伝わったとは限りません。例えば、因幡の白ウサギの「和爾(ワニ)」のように、言葉やニュアンスや考えだけが、伝播したという可能性もあります。
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