萬の屍体は8つに斬って8つの国へ

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崇峻天皇(八)萬の屍体は8つに斬って8つの国へ

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原文

於是、有一衞士、疾馳、先萬而伏河側、擬射、中膝。萬、卽拔箭、張弓發箭、伏地而號曰「萬、爲天皇之楯、將效其勇、而不推問。翻致逼迫於此窮矣。可共語者來、願聞殺虜之際。」衞士等、競馳射萬。萬、便拂捍飛矢、殺三十餘人、仍以持劒三截其弓、還屈其劒、投河水裏、別以刀子刺頸死焉。河內国司、以萬死狀、牒上朝庭。朝庭下苻稱「斬之八段、散梟八国。」河內国司、卽依苻旨、臨斬梟時、雷鳴大雨。

現代語訳

ここに一人の衛士(イクサビト=兵士)が居て、疾走して萬(ヨロズ)より先に行きました。そうして河のそばに伏して、擬(サシマカナウ=弓で狙いを定めること)して膝を射ち当てました。萬はすぐに矢を抜きました。弓を張って、矢を放ちました。地面に伏して大声で言いました。
「萬は! 天皇の楯として、その勇猛さを示してきたのだが、誰もそのことを問わない! それどころかこの窮(キワマリ=危機)に追い責められている。共に語るべき者よ! 来たれ! 願わくば、殺すのか捕らえるのか、聞きたいのだ!」
衛士たちは、競って走り、萬を射ました。萬は、すべての飛ぶ矢を払って防ぎ、30人以上を殺しました。持っていた剣で弓を三段に打ち切り、その剣を押し曲げて、河水の中へと投げ入れました。別の刀子(カタナ)で、頸(クビ)を刺して死にました。河内国司(カワチノクニノミコトモチ)は萬の死んだ有様を朝廷に牒(モウ)し上げました。朝廷は符(オシテフミ)を下して言いました。
「8段に斬って、8つの国に散らして、串刺しにして晒せ」
河内国司はすぐに符旨(オシテフミノムネ)のままに、斬って串刺しにしたときに、雷が鳴り、大雨が降りました。
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解説

悲劇のヒーロー萬
萬は物部に使えていたといっても、そこに政治的な意図はありませんでした。ただ、主君に仕え、全力で仕事をした。その結果が、朝廷と敵対し、最後は殺されるという結末です。

こういうことってよくあることでしょう。物語としても割とオーソドックスです。しかし、朝廷側としても萬は恐ろしい存在です。たった一人で数百の兵を相手にして後に引かず、最後は萬が自殺したということは、そこまで追い込んだという意味でもありますが、そこいらの兵士では殺せない屈強さがあったということでもあります。そんな人物を野放しにしておけない。
八つに斬って、八つの国に散らせ
日本人は死者の霊の祟りを恐れます。それが生前、これほど屈強な人物だったら尚更です。「8つに斬って、8つの国に」というのは、一見すると「朝廷の残虐さ」と思うのですが、これは「8つに分けて、霊力を分散する」というのが本質でしょう。それほどに怖かったのです。
平将門
平安時代に朝廷に弓引いた平将門も、乱の鎮圧後に、バラバラにされ、それが関東で神社となって残っています。日本人は恐ろしい力を持った人物を祀りあげるものですが、中でも強く、そして未練と恨みを持って死んだ人物は、バラバラにして霊威を分散しないと鎮魂…というか押さえつけられないと考えたのでしょう。
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