神宝と出雲振根

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崇神天皇(二十二)イズモノフルネ(日本書紀)

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原文

六十年秋七月丙申朔己酉、詔群臣曰「武日照命(一云武夷鳥、又云天夷鳥)從天將來神寶、藏于出雲大神宮。是欲見焉。」則遣矢田部造遠祖武諸隅(一書云、一名大母隅也)而使獻。當是時、出雲臣之遠祖出雲振根、主于神寶、是往筑紫国而不遇矣。其弟飯入根、則被皇命、以神寶付弟甘美韓日狹與子鸕濡渟而貢上。既而出雲振根、從筑紫還來之、聞神寶獻于朝廷、責其弟飯入根曰「數日當待。何恐之乎、輙許神寶。」是以、既經年月、猶懷恨忿、有殺弟之志、仍欺弟曰「頃者、於止屋淵多生菨。願共行欲見。」則隨兄而往之。先是、兄竊作木刀、形似眞刀。當時自佩之、弟佩眞刀、共到淵頭、兄謂弟曰「淵水淸冷、願欲共游沐。」弟從兄言、各解佩刀、置淵邊、沐於水中。乃兄先上陸、取弟眞刀自佩、後弟驚而取兄木刀、共相擊矣、弟不得拔木刀、兄擊弟飯入根而殺之。故時人歌之曰、

椰句毛多菟 伊頭毛多鶏流餓 波鶏流多知 菟頭邏佐波磨枳 佐微那辭珥 阿波禮
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現代語訳

崇神天皇即位60年秋7月14日。崇神天皇は群臣に詔(ミコトノリ)を発しました。
「武日照命(タケヒナテルノミコト)が天より持って来た神宝(カムタカラ)が出雲大神(イズモノオオカミ)の宮に治められている。是非、これを見たいものだ。
ある書によると、武夷鳥(タケヒナトリ)、または天夷鳥(アメヒナトリ)といいます。


すぐに矢田部造(ヤタベノミヤツコ)の遠祖の武諸隅(タケモノロズミ)を派遣して献上させようとしました。
ある書によると、別名を大母隅(オオモロズミ)といいます。


そのとき、出雲臣(イズモノオミ)の遠祖の出雲振根(イズモノフルネ)は神宝(カムタカラ)の担当でした。そこで筑紫国(ツクシノクニ)に行っていて、(命を受けた武諸隅には)会いませんでした。

その弟の飯入根(イイイリネ)は天皇の命を受けて、神宝を弟の甘美韓日狹(ウマシカラヒサ)と子の鸕濡渟(ウカヅクネ)に託して、献上しました。

それから出雲振根(イズモノフルネ)が筑紫から帰って来て、神宝を朝廷に献上したと聞いて、その弟の飯入根(イイイリネ)を責めて言いました。
「数日(シバシ)待つべきだった!
何を恐れたか!! たやすく神宝を手放しおって!!」
それから年月を経たのですが、それでも恨みは大きくなるばかりで、弟を殺そうと考えるようになりました。
それで弟を欺こうとして
「このごろ、止屋(ヤムヤ=島根県出雲市今市町・大津町・塩谷町付近)の淵に菨(モ=水草のアサザのこと)が沢山生えている。頼むから一緒に見に行って欲しい」
それで兄に従って行きました。
コレ以前に、兄は密かに木刀を造っていました。形状は真剣にそっくりでした。その木刀を自分が帯刀しました。弟は真剣を帯刀しました。
二人が淵のそばに到着したので、兄は弟に言いました。
「淵の水は清冷(イサギヨシ=清らか)だ。一緒に游沐(カアミ=水浴び)をしようじゃないか」
弟は兄の言葉に従って、それぞれが帯刀してきた刀を抜いて、淵のそばに置いて、水の中で沐(カハアム=水浴び=体を清める)しました。
兄は先に陸に上がり、弟の真剣を取って、帯刀しました。
その後に弟は驚いて兄の木刀を手に取りました。
共に刀を撃ち込もうとしました。
しかし弟は木刀なので抜く事も出来ず、兄は弟の飯入根(イイイリネ)を撃ち殺しました。
それで世の人は歌詠みしました。

や雲立つ 出雲梟帥(イズモタケル)が
佩(ハ)ける太刀(タチ)
黒葛(ツヅラ)多(サホ)巻き
さ身無しに あはれ
歌の訳
イズモタケルが身につけた太刀は、黒いツタを巻いているだけで、刀身が無いよ かわいそう
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解説

ほぼ同じ話がヤマトタケルにある
古事記の景行天皇のところにヤマトタケルの出雲征伐に刀を取り替える話があります。

おそらくはこの「刀取り替え」は出雲に神話としてあったのでしょう。それを取り込んだ。だからイズモフルネとイイイリネが実在しないとかヤマトタケルが実在しないということではなく、出雲征伐や神宝献上が史実として存在して、そこに神話がくっついたと考えるべき。
登場人物たち
イズモノフルネはこのページにしか登場しません。記紀以外の書物でも登場しません。しかしイイイリネは姓氏録には「土師宿禰・菅原朝臣の祖の天穂日(アメノホヒ)の12代孫の飯入根」とあり、イイイリネの弟の甘美韓日狹(ウマシカラヒサ)は同じく姓氏録の「凡河内忌寸の祖で天穂日の13代孫可美乾飯入根」と同一人物ではないか?と思われます。
よってイズモノフルネも名前こそは残っていませんが、実在した可能性は高いです。
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