天智天皇(四十五)東宮は即位を固辞・吉野で仏門の修行に

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天智天皇(四十五)東宮は即位を固辞・吉野で仏門の修行に

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原文

庚辰、天皇疾病彌留。勅喚東宮引入臥內、詔曰、朕疾甚、以後事屬汝、云々。於是、再拜稱疾固辭、不受曰「請奉洪業付屬大后・令大友王奉宣諸政。臣請願奉爲天皇出家修道。」天皇許焉。東宮起而再拜、便向於內裏佛殿之南、踞坐胡床、剃除鬢髮、爲沙門。於是、天皇遣次田生磐、送袈裟。壬午、東宮見天皇請之吉野修行佛道、天皇許焉。東宮、卽入於吉野。大臣等侍送、至菟道而還。

現代語訳

(即位10年)10月17日。天皇の病気が重くなりました。勅(ミコトノリ)して東宮(マウケノキミ=ここでは大海人皇子)を呼び寄せて臥内(オオトノ)に引き入れて、詔(ミコトノリ)して言いました。
「朕(ワレ)の病気はもう酷い。後々のことをお前に託す」
と云々。

そこで(東宮は)、再拝(オガミ)して、病気であると言って固辞して、受けず言いました。
「請い願います。洪業(ヒツギ=天皇に即位して仕事をすること)を奉じて、大后(オオキサキ=倭姫王=天智天皇の妻で舒明天皇の娘)に授けてください。大友王(オオトモノオオキミ=大友皇子)に諸々の政治を奉宣(ノタマワセル=太政大臣として執行させること)させてください。臣(ヤツカレ=自分を卑下した言い方)は請い願います。天皇のために出家して修道しようと思います」
天皇は許しました。
東宮は立ち、再拝しました。すぐに内裏の仏殿の南に行き、胡床(アグラ)に座って、髭と髪を剃り、沙門(ホウシ=法師=僧)となりました。天皇は次田生磐(スキタノオイワ)を派遣して、袈裟を送らせました。
10月19日。東宮は天皇に会い、吉野に行き、仏道の修行をしたいと請い願いました。天皇は許しました。東宮はすぐに吉野に入りました。大臣たちは送迎しました。菟道(ウジ)に到着して帰りました。
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解説

天智天皇が「私は病気だから、あとは頼んだ」と言ったら、弟である大海人皇子が「皇后に即位させて、執務は大友皇子にやらせてください」と固辞しました。

なぜ大海人皇子が断ったのか? に関しては、よくある説が「この時、即位を受けたら謀反の疑いで殺されていた」と言われていますが、本当かな?とも。

天皇が亡くなった後、その皇后が即位して、実務は親族が行うというのは、推古天皇・皇極天皇・斉明天皇と、このところ続いていますから、それほど無茶苦茶な理屈では無いでしょう。むしろ自然に思えるくらいです。

またこの手の「即位を促されて一旦は断る」というのも「即位のパターン」です。一旦断る方が謙虚で感じがいいですから、即位の経緯では「一旦断る」というのがお決まりごとみたいなもんです。珍しくもなんともない。だから大海人皇子が断るという経緯も、不自然じゃない。

もちろん、天皇が即位する順番は「兄」→「弟」というパターンが多く、天智天皇から天武天皇と続くことも不思議じゃないです。
つまり断ることも受けることも、どちらも有り得る訳で、どっちにしても不自然というわけじゃないよってことです。
この経緯の意味
私には、二つ「仮説」があります。

一つは「大海人皇子は仏門に入らされた」というパターン。自分から仏門に入ったのではなくて、無理やりに頭を丸めさせられて、不本意に仏門に入った。この場合だと天智天皇は息子である大友皇子に天皇を即位させたかったから、大海人皇子を仏門に入れたってことです。それで恨み心頭になって、壬申の乱というクーデターが起きた。大海人皇子が自ら仏門に入ったように書かれているのは、ある程度は「粉飾」ということになります。まぁ、編纂のパトロンですからね。

もう一つの仮説は「アンチ儒教」説です。
天智天皇は明らかに儒教の信奉者でした。しかしそのやり方は古来の日本人には全く合わないものだった。儒教の世界観では、朝貢する百済を放置できない。それで百済を救済し、白村江の敗戦。その結果、日本を混乱に至らしめたのは間違い無く、斉明天皇&天智天皇です。まぁ、良かれと思ってやったことなんでしょうけどね。
大海人皇子は吉野で仏門に入り、力を蓄えることになります。すでに天智天皇とその子の大友皇子には人望がありません。多くの氏族はそのやり方についていけない。大海人皇子が仏門に入ったのは
「俺は天智天皇とは違うぜ!」
と示す意味があったのではないか? いや、仏門に入ったことが結果的にそういうメッセージになり、氏族が集まったのではないか?と思います。
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