天武天皇(三十六)紀臣閉麻呂の褒賞・高麗と新羅の賀騰極使・耽羅の使者の帰国

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天武天皇(三十六)紀臣閉麻呂の褒賞・高麗と新羅の賀騰極使・耽羅の使者の帰国

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原文

秋八月甲申朔壬辰、詔在伊賀国紀臣阿閉麻呂等壬申年勞勳之狀、而顯寵賞。癸卯、高麗、遣上部位頭大兄邯子・前部大兄碩千等、朝貢。仍新羅、遣韓奈末金利益、送高麗使人于筑紫。戊申、喚賀騰極使金承元等中客以上廿七人於京。因命大宰、詔耽羅使人曰「天皇、新平天下、初之卽位。由是、唯除賀使以外不召、則汝等親所見。亦時寒浪嶮、久淹留之還爲汝愁、故宜疾歸。」仍在国王及使者久麻藝等、肇賜爵位。其爵者大乙上、更以錦繡潤飾之、當其国之佐平位。則自筑紫返之。

現代語訳

(即位2年)秋8月9日。伊賀国に居る、紀臣閉麻呂(キノオミアヘマロ)たちに壬申の年の労勲之状(イタワリイクサノイサオシサ=戦争の功績)を詔(ミコトノリ)して、明確に寵賞(メグミタマモノ=褒賞を与えた)した。

8月20日。高麗の上部(ジョウホウ=高句麗の地域のひとつ)の位頭大兄(イズダイキョウ=高句麗の官位の名前)の邯子(カムシ)・前部(ゼンホウ=高句麗の地域のひとつ)の大兄(ダイキョウ=高句麗の官位の名前)の碩千(セキカン)たちを派遣して朝貢しました。そこで新羅の韓奈末(カンナマ=新羅の官位の名前)の金利益(キンリヤク)を派遣して、高麗の使者を筑紫に贈りました。

8月25日。賀騰極使(ヒツギヨロコブツカイ=天皇の即位を祝う使者)の金承元(キンジョウガン)たちや客人、以上二十七人を京(ミヤコ)に呼び寄せました。それで太宰(オオミコトモチ=九州の太宰府)に銘じて、耽羅(タムラ=済州島)の使者に詔(ミコトノリ)して言いました。
天皇は新たに天下を平定して、初めて即位しました。それで即位を祝う使者以外は、呼び寄せなかったのです。お前たちが自ら見たとおりのことです。またこの所、寒く波が高い。長く留めれば、帰国するお前たちが困るだろう。早く帰ったほうがいいだろう」
国に居る王と使者の久麻芸(クマギ)たちに初めて爵位を与えました。その爵位は大乙上(ダイオツジョウ)です。さらに、錦繍(ニシキノヌイモノ=錦の刺繍)で飾りました。その国の佐平位にあたります。筑紫から帰らせました。
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解説

高麗と新羅と耽羅の使者
高麗と新羅から、「新しい天皇の即位の祝いの使者」がやって来たのですが、耽羅(=済州島)からは即位の祝いの使者ではなかったものですから、今日には呼ばれませんでした。なんか冷たいから、敵対しているような気もしますが、王と使者に爵位を与えて、刺繍の入った布を渡していることから考えても、「敵対」とは違っているよう。別の理由がありそうです。

天武天皇は実質クーデターによって即位した人物です。叔父と甥の争いであって、血統が変わっていないのですが、「クーデターによって天皇になった」というケースが他にない以上(歴史上もない)、これは日本ではほぼ唯一の「クーデター」であり、なおかつ成功例です。王朝は変わっていないものの、王朝が変わったくらいのインパクトのある史実です。

この「即位の祝いの使者」じゃないから、お前らは呼ばなかったよ。というのは、つまりこういうことじゃないかと思うのですね。

弘文天皇(=大友皇子)と天武天皇(=大海人皇子)は実質、並存した王朝だったのではないか? もちろん、非常に短い期間なんですが、この二つの王朝は並存していたのでしょう。どちらもが「天皇」と名乗った。流れから言えば、正当な王朝は弘文天皇です。だから外国からの使者は、公文天皇に向けて送られた。まぁ、耽羅としては、どっちが天皇でもどうでもいいんですよ。

ただ新羅や高句麗は違った。

天武天皇は儒教を信奉していました。儒教は上下関係を重んじ、下は上を敬います。その一方で朝貢した下を、上は助けないといけない。そういう義務があります。だから日本は百済を支援したのでしょう。しかし、日本はそもそも儒教国ではなく、儒教のロジックでは動かない。孝徳天皇・天武天皇が一時的に傾倒しただけで、日本全体は、そういう面倒な思想は嫌いです。

そこに反儒教を掲げた天武天皇が出てきた。新羅や高句麗としては、儒教的なロジックで活動する日本は嫌だったんじゃないかと思います。できれば昔ながらの「和」のロジックがいい。だから「即位を祝う使者」を送った。これは天武天皇としても有難いアシストのはずです。

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