來目部の勝利の歌

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冬十月癸巳朔(三)來目部の勝利の歌

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原文

時、我卒聞歌、倶拔其頭椎劒、一時殺虜、虜無復噍類者。皇軍大悅、仰天而咲、因歌之曰、

伊莽波豫 伊莽波豫 阿阿時夜塢 伊莽儾而毛 阿誤豫 伊莽儾而毛 阿誤豫

今、來目部歌而後大哂、是其緣也。又歌之曰、

愛瀰詩烏 毗儾利 毛々那比苔 比苔破易陪廼毛 多牟伽毗毛勢儒

此皆承密旨而歌之、非敢自專者也。時天皇曰「戰勝而無驕者、良將之行也。今魁賊已滅、而同惡者、匈々十數群、其情不可知。如何久居一處、無以制變。」乃徙營於別處。

現代語訳

私たちの兵士は歌(冬十月癸巳朔(二)道臣命の密命と歌の歌)を聴くと、いっせいにその頭椎劒(クブツチノツルギ)を抜いて、敵を斬り殺してしまいました。敵は噍類者(ノコルモノ=生き残り)は居ませんでした。
皇軍(ミイクサ)はとても悦び、天を仰いで咲(ワラ)いました。そして歌を歌いました。

今はよ 今はよ ああしやを
今だにも 吾子よ 今だにも 吾子よ
歌の訳
今のところは、勝利したぞ
今だけでも 我が兵よ
今だけでも 我が兵よ!

今でも來目部(クメラ)が歌ったあとに大きく笑うのは、このためです。また歌を歌いました。

蝦夷を 一人 百(モモ)な人
人は言えども 抵抗(タムカヒ)もせず
歌の訳
夷が一人で百人分の強さと言うが
抵抗もできやしないじゃないか!!!

これらの歌は天皇の命令によって歌ったものです。勝手に自分たちが歌ったのではありません。そのとき天皇は言いました。
「戦いに勝って、驕(オゴ)らないのが良い将軍というものだ。今、敵の親玉は滅んだが、同様に刃向かうものが皇軍を恐れているとはいえ十数群ほどある。実情(このまま従うか刃向かうかどうか?)は分からない。このままずっと同じ場所に居て、待っていてはいけない」
そうして、軍を移動させました。
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解説

蝦夷
蝦夷は後には東北地方の民族ということになりますが、漠然とした「異民族」という意味でしょう。今で言うところの「外国人」みたいな。白人も黒人もインド人も中国人も全部「外国人」という言葉でひっくるめるのと一緒かと。
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