兄磯城と弟磯城

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十有一月癸亥朔己巳(一)兄磯城と弟磯城

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原文

十有一月癸亥朔己巳、皇師大舉、將攻磯城彦。先遣使者徵兄磯城、兄磯城不承命。更遺頭八咫烏召之、時烏到其營而鳴之曰「天神子召汝。怡奘過、怡奘過。(過、音倭。)」兄磯城忿之曰「聞天壓神至而吾爲慨憤時、奈何烏鳥若此惡鳴耶。(壓、此云飫蒭。)」乃彎弓射之、烏卽避去、次到弟磯城宅而鳴之曰「天神子召汝。怡奘過、怡奘過。」時弟磯城惵然改容曰「臣聞天壓神至、旦夕畏懼。善乎烏、汝鳴之若此者歟。」卽作葉盤八枚、盛食饗之。葉盤、此云毗羅耐。因以隨烏、詣到而告之曰「吾兄々磯城、聞天神子來、則聚八十梟帥、具兵甲、將與決戰。可早圖之。」
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現代語訳

十一月の七日。皇師(ミイクサ=天皇の軍)は大挙して磯城彦(シキヒコ=磯城の首長)を攻めようとしました。まず、使者を派遣して兄磯城(エシキ)を呼び寄せました。しかし、兄磯城(エシキ)は命に背いて、出て来ません。そこで頭八咫烏(ヤタノカラス)を派遣してまた呼び寄せました。その時、カラスが(兄磯城の)陣営で鳴いて言いました。
天津神(アマツカミ)の子がお前を呼んでいる。
さぁ!!! さぁ!!!」
過は倭(ワ)と読みます。

兄磯城(エシキ)は怒って言いました。
「天壓神(アメオスノカミ=天から強い力で圧迫する神)が居ると聞いて、わたしは妬んでいるというのに、どうして烏鳥(カラス)はこんな嫌な声で鳴くのか!」
壓は飫蒭(オシ)と読みます

すぐに弓を引いて射った。
するとカラスは立ち去りました。
次に弟磯城(オトシキ)の家に行き、鳴いて言いました。
天津神(アマツカミ)の子がお前を呼び寄せている。
さぁ! さぁ!!!」
弟磯城(オトシキ)は怖がって言いました。
「わたしは天圧神(アメオスノカミ)が(この土地に)到着したと聞いて、朝から晩まで恐れ畏まっていました。鳥がわたしのところでこのように鳴くのは良い事ですよ」
すぐに葉盤八枚(ヒラデヤツ=木の葉で編んだ平たい皿を八枚)を作って、食べ物を盛って(カラスに)食べさせました。
葉盤は毗羅耐(ヒラデ)と読みます。

カラスが導くままに天皇の元にやってきた言いました。
「私の兄の兄磯城(エシキ)には、天津神が来たと聞いて、八十梟帥を集め、兵甲(ツワモノ=武防具)を準備して、戦おうとしています。すぐに対策を取ってください」
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解説

デジャブ?
秋八月甲午朔乙未(一)兄猾と弟猾と細かいところは違いますが、兄弟のうち、弟は従い、兄は反抗して、兄が殺されるというパターンが同じです。

また「鳥」が伝令をして、矢で射たれるというのは出雲の天稚彦(アメノワカヒコ)の件と似ています。

また「兄」「弟」がセットになっているのはヤマトタケルのクマソタケル(兄弟)退治や、出雲風土記にある「兄の出雲振根と弟の飯入根の剣を取り替えての殺害」、ヤマトタケル自身も双子で兄のオオウスを殺害しているなど、兄弟というのが物語の中で特別扱いになっていて、弟が「善側」になっている。
出雲振根と飯入根の場合は朝廷に宝を差し出した弟が兄に殺されるが、その後、朝廷に兄が殺される。よって弟は朝廷から見て「善い人」。

日本の神話のステレオタイプが見えて来る。ただ、エシキ・オトシキにしろクマソタケルにしろ、神話だから史実ではないということではなく、史実が神話となったものが残ったのだと思われ、「創作」とは限らないし、まるきりの創作というのは無理がある。
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