白鳥陵守目杵は白鹿に化けて逃げた

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仁徳天皇(三十五)白鳥陵守目杵は白鹿に化けて逃げた

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原文

五十八年夏五月、當荒陵松林之南道、忽生兩歷木、挾路而末合。冬十月、吳国・高麗国、並朝貢。

六十年冬十月、差白鳥陵守等、充役丁。時天皇親臨役所、爰陵守目杵、忽化白鹿以走。於是天皇詔之曰「是陵自本空、故、欲除其陵守而甫差役丁。今視是怪者、甚懼之。無動陵守者。」則且、授土師連等。

現代語訳

即位58年夏5月。荒陵(アラハカ)の松林(マツバラ)の南の道に二本の歴木(クヌギ)が生えていました。道を挟んで枝が合わさりました。

冬10月に呉国(クレノクニ)・高麗国(コマノクニ)が朝貢しました。

即位60年冬10月。白鳥陵守(シロトリノミササギモリ)たちを役丁(エヨホロ=墓守であり百姓の仕事もする人)にしようとしました。天皇は自ら役(エダチ=役所=ここでは墓守の仕事場)の所に観に行きました。すると陵守目杵(ミサザキモリノメキ)は白鹿(シロキカ)に化けて走って逃げました。天皇は詔(ミコトノリ)して言いました。
「この陵(ミサザキ=墓)は元々、空っぽだ。だから、この陵守(ミサザキモリ)を止めようと思って、役丁(エキホロ)にしようとした。今の怪しい者を見るに、とっても不思議だ。陵守は動かすのは止めよう」
土師連(ハジノムラジ)たちに陵守の管轄権を与えました。
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解説

連理の木
即位58年の「二本のクヌギの木が道を挟んで合体した」というのは、「連理の木」という思想です。連理の木は中国の考えで違う木が合わさって合体してしまうことで、「吉兆」とされていました。
なんの吉兆かというと「呉と高麗が朝貢した」ってことです。何かしらの接触があったのでしょうね。呉は中国江南地域のことです。
役丁
墓を守る役割の人を「陵守」というのですが、墓を守るといっても軽い仕事の場合は、墓守をしつつ、農業もやんなきゃいけないんですね。それが「役丁」です。「丁」という字は「偶数」を表していて、「役丁」は「役(=仕事)が二つある」という意味で、まぁ、二足のわらじというか、兼業農家というか、そういう意味です。

ところで、白鳥陵というのは景行天皇の息子のヤマトタケルの墓のことです。ヤマトタケルは死後、白鳥と成って、あちこちに飛んで行きまして、伊勢の能褒野、倭の琴弾原、河内の旧市邑の三箇所に「白鳥陵」はあったのですね。

その白鳥陵の墓守に仁徳天皇が「墓は空っぽなんだからさー、墓守だけで給料出せないわー、農業やれやー」と言おうとしたら、墓守の目杵(メキ)が白い鹿に化けて走って逃げたんです。それを見て、「うわ、やっぱやめとこ!」と土師連に墓守の管轄権を与えてしまったと。
空っぽ?
ヤマトタケルが眠っているはずの墓。しかし、仁徳天皇が言うには「中身は空っぽ」。空っぽであることは、誰もが知っていた。当たり前の事実だったのでしょう。空っぽの墓だから、守る必要はない。でも、怪異があったから結局は墓守は続けたんですが、しかし「墓が空っぽ」ってのはどういうことか?

ヤマトタケルは実在しなかった?のでしょうか? わたしは逆じゃないかと思います。ヤマトタケルは実在した。ヤマトタケルは実在したが、古事記や日本書紀のように「死んではいなかった」のではないでしょうか?

もしもヤマトタケルが実在しない……ならば「墓」自体を作る必要がない。でも、実在したが「死ななくちゃいけない理由」があって、死んだことにするために墓を作ったのなら。

ヤマトタケルは風土記では「天皇」と称されたり、日本書紀でも行動の表現が天皇クラスの扱いです。つまりヤマトタケルは天皇だった。でも、天皇とすることは出来なかった。ヤマトタケルが「人殺し」だからです。クマソタケル・イズモタケル……幾人かを殺し、死穢にまみれていた。穢れた人物は天皇になれない。天皇は清らかでないといけない。だから墓を作って死んだことにした。わたしはヤマトタケルは成務天皇だろうと思います。

成務天皇は極端に記述が少ないです。それは成務天皇の活躍がヤマトタケルに吸収されたからではないかと。

仁徳天皇の時代、「ヤマトタケル=成務天皇」という事実は当たり前に知っていた。誰もが知っていた。当然、墓は空っぽだというのも知っていた。しかし成務天皇が死に、時代が変わると、そこに墓守を置いているのがバカバカしくなった。厳重に警備してもしょうがないでしょう。墓守を専属墓守から、農業兼業墓守へと変えようとした。結局、「怪異」から気が変わったのですけどね。ヤマトタケルの何かの霊威を感じたのかもしれません。
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