香坂王を咋ひ食みき

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香坂王を咋ひ食みき

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原文

ここに香坂王(カゴサカノミコ)、歴木(クヌギ)に騰り坐すに、ここに大きなる怒り猪出でて、その歴木(クヌギ)を堀りて、即ちその香坂王(カゴサカノミコ)を咋ひ食みき。

現代文訳

香坂王(カゴサカノミコ)がクヌギの木に登っていると、そこに大きな怒った猪が出てきて、そのクヌギを掘って倒し、香坂王(カゴサカノミコ)を食い殺してしまいました。

解説

クヌギ
クヌギは俗に言う「どんぐり」。ドングリは本来はナラ科の木がつける、ああいう形の木の実のことで特定の木を指してはいませんが、まぁ、ああいう木なんだと思っていればいいと思います。

どんぐりと日本人
縄文土器の利用方法の第一が「ドングリの灰汁(アク)抜き」でした。ドングリには灰汁あって、そのままでは食べられない。日本中に生えているドングリの木もそのままではただの実。ところが、火に掛けて煮炊きできる縄文土器があれば「食料」に早変わりです。

猪について
カゴサカ王はクヌギの木に登っていると猪に食い殺されました。そういえばヤマトタケルが死んだ原因も猪でした。
参考:息吹山の神を素手で殺す

またオオクニヌシも兄弟とのいさかいの中で、火をつけられた石につぶされて死んでしまいますが、この計略の中にも猪が出てきます。
参考:伯耆国の手間の山

猪は山に住む「強い力」を持った存在だったのでしょうね。熊の語源は神と同じといいます。熊は山で出会ったら即アウト。死んでしまうでしょう。でも猪はそこまでではない。狩の対象でもあったはずです。ただし、ウサギのように狩りやすい対象でもなかった。場合によっては怪我してしまう。場合によっては怪我が元で不自由になり、そのまま死んでしまうこともあった。そういうポジションが垣間見えます。

個人的コラム

山の神である猪として
さてさて。
山の神までも神功皇后の味方。の感じがしますよね。誓約という占いをするための狩をしていたカゴサカ王とオシクマ王。誓約の狩ってのは、狩の獲物の次第によって、吉兆を占うわけです。大物が取れたら、大吉です。

その誓約狩の結果がカゴサカ王の死。
猪に木を倒されて、猪に食べられるというなんともむごたらしい結末。

なぜ山の神まで
海の巫女、オキナガタラシヒメこと神功皇后は魚や海の神の力を借りて、新羅を征伐。まるきり海の属性を持った神功皇后なのに、山の神まで皇后を味方するとなると、あらゆる神が皇后を味方するような気がします。

これはカゴサカ王が死んだ物語と、神功皇后の物語が別々の伝承だったからではないか、と思います。

全体的に神功皇后の物語は、時代が「古い」のではないかと思うのです。個人的には、神武天皇よりも下手すると古い物語を、ぶっこんでいるのではないかと思います。

神功皇后の話は畿内より東に行かない。
それは皇后が東に「実際に行ってない」からかもしれません。東の物語が無いだけ、かもしれません。でも、もしかすると神功皇后の物語は、大和朝廷が東に勢力を伸ばす前の物語ということもあるのではないでしょうか。
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