第七段一書(三)-5姉君は、天の国を照らしてください。

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第七段一書(三)-5姉君は、天の国を照らしてください。

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原文

素戔鳴尊、乃轠轤然、解其左髻所纒五百箇御統之瓊綸、而瓊響瑲瑲、濯浮於天渟名井。囓其瓊端、置之左掌而生兒、正哉吾勝勝速日天忍穗根尊。復囓右瓊、置之右掌而生兒、天穗日命、此出雲臣・武藏国造・土師連等遠祖也。次天津彦根命、此茨城国造・額田部連等遠祖也。次活目津彦根命、次熯速日命、次熊野大角命、凡六男矣。於是、素戔鳴尊、白日神曰「吾所以更昇來者、衆神處我以根国、今當就去、若不與姉相見、終不能忍離。故、實以淸心、復上來耳。今、則奉覲已訖、當隨衆神之意、自此永歸根国矣。請、姉照臨天国、自可平安。且吾以淸心所生兒等、亦奉於姉。」已而、復還降焉。廢渠槽、此云祕波鵝都。捶籤、此云久斯社志。興台産靈、此云許語等武須毗。太諄辭、此云布斗能理斗。轠轤然、此云乎謀苦留留爾。瑲瑲乎、此云奴儺等母母由羅爾。
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現代語訳

第七段一書(三)-5
スサノオは左のまとめた髪に巻いていた五百箇統之瓊(イホツノミスマルノタマ)の紐をほどきました。そして、勾玉がぶつかって音がするほどに、紐をユラユラとするくらいに、ジャブジャブと天渟名井(アメノヌナイ=井戸の名前)で洗いました。

その玉の端を噛んで、左手に置いて生まれた子供は
正哉吾勝勝速日天忍穗根尊(マサカアカツカチハヤヒアメノオシホネノミコト)です。

また右の髪飾りの勾玉を噛んで右手に置いて生まれた子供は天穗日命(アメノホヒ)です。この髪は出雲臣(イズモノオミ)・武蔵国造(ムサシノクニノミヤツコ)・土師連(ハジノムラジ)などの遠い祖先です。

次に天津彦根命(アマツヒコネ)が生まれました。この神は茨城国造(イバラキノクニノミヤツコ)・額田部連(ヌカタベノムラジ)などの遠い祖先です。

次に活目津彦根命(イクメツヒコネノミコト)が生まれました。

次に熯速日命(ヒノハヤヒ)が生まれました。
次に熊野大角命(クマノオオクマノミコト)が生まれました。

以上で六柱の男神です。

スサノオ白日神(=アマテラスの事)に言いました。
「わたしがもう一度、天に昇って来たのは、神々が根の国にわたしを行かせるからです。
もう根の国へと去ろうと思ったのですが、姉(=アマテラス)に会わないで行ってしまうのは、耐えられませんでした。わたしは本当に清らかな心で天に昇って来たのです。
もう、十分です。
神々の望み通りに、永遠に根の国へと行きましょう。
姉君は、天の国を照らしてください。
そして健康でいてください。
また私が清らかな心で生んだ子供たちは、姉君にささげましょう」
そうしてまたスサノオは天を降りて行きました。
廃渠槽を秘波鵝都(ひはがつ)と読みます。捶籤を久斯社志(くしざし)と読みます。興台産靈を許語等武須毘(こごとむすひ)と読みます。太諄辞を布斗能理斗(ふとのりと)と読みます。 讄轤然を乎謀苦留留爾(をもくるるに)と読みます。瑲瑲乎を奴儺等母母由羅爾(ぬなとももゆらに)と云う

古事記の対応箇所
男神五柱の誕生
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解説

宗像の女神は生まれず
この第七段一書(三)では宗像三女神は生まれませんでした。宗像の神は後進の氏族宗像君)の神であり、古来から大和朝廷に関わった神ではないということでしょう。
讄轤然
オモクルルニと読むと注釈があるこの部分。どういう意味なのかよく分かりませんでした。

個人的コラム

血縁の意味
アマテラスの子孫が天皇で、天皇がこの日本を治める根拠となるのがこれらの神話でした。天皇が天皇たる所以は「血」です。親をたどっていけばそこに神に繋がることが天皇の根拠です。

しかしアメノオシホネ…後にニニギへと繋がるオシホミミと同一神はアマテラスの子供かというと、そうではないです。この物語ではスサノオの持ち物からスサノオが生んだ子供であり、アマテラスとは無関係です。

この物語では天皇はスサノオの血統となります。子供たちをアマテラスへと養子に出したのだとしても、です。
古代の日本人は血統に拘らなかったのでは?
日本人が血統に拘るようになったのは、儒教の思想が入って来てからではないでしょうか。儒教では親を敬い、家を重視します。しかし古代の日本人はそうでは無かった。それがこの段に現れています。

アマテラスは罪人スサノオの子供を引き取り、自分の子孫とします。弟ではありますが、血統が違いますし、何より罪人の子孫です。

天武天皇が古事記・日本書紀を残す動機である「天皇の血統」という考え自体が儒教的です。尚古主義というやつです。もしかすると儒教があったからこそ記紀が生まれたのかもしれません。
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