古語拾遺12 天祖の神勅

于時　天祖天照大神高皇産靈尊　乃相語曰　夫　葦原瑞穗国者　吾子孫可王之地　皇孫就而治焉　寶祚之隆　當與天壤无窮矣　即　以八咫鏡及薙草劍二種神寶　授賜皇孫　永爲天璽　【所謂神璽釼鏡是也】　矛玉自從　即　勅曰　吾兒視此寶鏡　當猶視吾　可與同床共殿　以爲齋鏡　仍　以天兒屋命太玉命天鈿女命　使配侍焉　因　又勅曰　吾則起樹天津神籬　【神籬者　古語　比茂侶伎】　及天津磐境　當爲吾孫奉齋矣　汝天兒屋命太玉命二神　宜持天津神籬　降於葦原中国　亦爲吾孫奉齋焉　惟　爾二神　共侍殿内　能爲防護　宜以吾高天原所御齋庭之穗　【是　稻種也】　亦當御於吾兒矣　宜太玉命率諸部神供奉其職　如天上儀　仍　令諸神亦與陪從　復勅大物主神　宜領八十萬神　永爲皇孫奉護焉　仍　使大伴遠祖天忍日命　帥來目部遠祖天槵津大來目　帶仗前驅

天祖（アマツミオヤ）の天照大神（アマテラスオオミカミ）と高皇産靈尊（タカミムスビノミコト）は話し合って言いました。
「この葦原の瑞穂国（アシハラノミズホノクニ）は我が子孫が王である土地です。皇孫（スメミマ）が行き、統治させましょう。宝祚（アマツヒツギ＝天皇の位のこと）が栄えれば、天地とともに困窮することはないでしょう」
それで、八咫鏡（ヤタノカガミ）と草薙剣（クサナギノツルギ）の二種の神宝を、皇孫（スメミマ＝ニニギ）に授けられまして、永遠に天璽（アマツシルシ）…

としました。矛・玉は当然ながら従いました。そして勅（ミコトノリ）して言われました。
「我が子、この宝の鏡を見るということは、私（＝アマテラス）を見るのと同じだとしなさい。同じ床の神殿で生活して、神体の鏡としなさい」
それで天児屋命（アメノコヤネノミコト）、太玉命（フトダマノミコト）、天鈿女命（アメノウズメノミコト）を添えて、従わせました。それで勅して言いました。
「私は天津神籬（アマツヒモロギ）…

また、天津磐境（アマツイワサカ）を起こして立てて、我が子孫のために祝い、奉りましょう。お前たち…天児屋命、太玉命の二柱の神は天津神籬を持ち、葦原中国に降臨し、我が孫のために祝い祀りなさい。二柱の神は共に神殿の中に勤めて、守ってください。我が高天原で食事する斎庭の穂（ユニワノイナホ）…

を用いて、我が子に食べさせなさい。太玉命はその諸々の部民の神を率いて、その職に仕えて祀り、天上界（＝高天原）の儀式のようにしなさい」
（太玉命が率いた部民の神とは別の）諸々の神も、ともに従えさせました。また、大物主神（オオモノヌシノカミ）に勅して言いました。
「八十万（ヤソヨロズ）の神を率いて、永遠に皇孫のために守り、奉りなさい」
それで大伴（オオトモ）の遠祖（トオツオヤ＝遠い先祖）の天忍日命（アメノオシヒノミコト）が、来目部（クメベ）の遠祖の天槵津大来目（アメノクシツオオクメ）を率いて、仗（ツワモノ＝武器）を帯刀させて、前駆（ミサキハライ＝先陣を切ること）させました。

三種の神器じゃないのね
古事記・日本書紀には明確に「三種の神器（鏡・剣・玉）」という記述はなく、三種の神器が「天皇位を継いだ証拠」と見るのは平安時代の後半から。古語拾遺では「二種の神宝が天璽です」「矛と玉も従った」と書いてあるので、古語拾遺が成立した807年には三種の神器の原型はあったけど、成立までは至っていないってことになる。
三種の神器では入っていないけども、「矛」も大事な「天璽」であるという感覚は日本書紀・古語拾遺から見られる。

同じ床の神殿で
大王は神とともに暮らしていたことが分かっている。神体と同じ家に生活することが、大事だったと考えていたらしい。
斎庭の穂
文章から考えると、孫の生活費って感じだけど、実際は神に捧げる稲穂であり、ニニギは穀物神ってこと。
天児屋命・太玉命・天鈿女命
天児屋命は中臣氏の先祖、太玉命は斎部氏の先祖、天鈿女命は猿女の先祖。古語拾遺は斎部氏が書いたもので、中臣氏と対抗する意味合いがあるので、太玉命を贔屓するように書いている、とされるが、天児屋命の記述が先になっているし、他の箇所でもそこまで贔屓しているとも言えない、ような気がする。
天忍日命・天槵津大来目
大伴氏と久米氏の先祖。両者は軍事関係の氏族。日本書紀では大伴氏が久米氏を率いている（＝古語拾遺と同じ）が、古事記では同等に描かれている、とされる。

古語拾遺（現代語訳）の表紙へ

• Page9　古語拾遺８素神の追放
• Page10　古語拾遺9 素神の霊剣献上
• Page11　古語拾遺10 大己貴神
• Page12　古語拾遺11 吾勝尊
• Page13　古語拾遺12 天祖の神勅
• Page14　古語拾遺13 天孫の降臨
• Page15　古語拾遺14 彦火尊と彦瀲尊
• Page16　古語拾遺15 神武天皇の東征
• Page17　古語拾遺16 造殿の斎部